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バイオ燃料・化学工業原料の低コスト生産に向けた新技術:粉砕・加熱処理により“糖質”を生産する非食用植物(自己糖化型エネルギー作物)を開発

[2011年6月17日]
 この度、本学大学院生命環境科学研究科・中平洋一特任講師が、株式会社耐熱性酵素研究所(兵庫県神戸市、奥崇代表取締役)との共同研究において、「粉砕・加熱処理により“糖質”を生産する非食用植物(自己糖化型エネルギー作物)」を開発しました。

 中平特任講師らは、葉緑体工学を用いることで、植物の細胞壁に含まれるセルロース系バイオマスを分解するための6種の耐熱性糖化酵素を(個別の植物において)大量生産する遺伝子組換えタバコの作出に成功。これら6種の遺伝子組換えタバコを適量ずつ混合し、粉砕・加熱処理などの簡便な処理を施すことによって、細胞壁に含まれるセルロース系バイオマスの50%以上を糖質(グルコースやキシロースなど)として回収できるシステムを確立しました。

 本研究で確立した基盤技術を実用植物(バイオマス生産量の多いイネ科やマメ科の非食用資源作物等)に導入することで、ガソリンの替わりに使われるバイオ燃料や有用化学製品の原料としての糖質を低コストかつ効率的に生産する技術の創製が期待されます。

 なお、本研究の成果は、本年1月に特許出願を完了しています(特願2011-8045)。


記者発表資料より

研究背景
 植物バイオマス(注1)のエネルギー・化学工業原料としての利用(バイオリファイナリー(注2))は、植物バイオマスがカーボンニュートラル(注3)な特性を持つことから、地球温暖化抑止に有効であるとともに、化石資源に替わる重要なエネルギー源として、持続可能な循環型社会の形成において重要な役割を担うと期待されている。とりわけ、石油代替燃料としてのバイオエタノール(注4) が注目を集めており、世界規模での需要が拡大している。しかし、現行のバイオエタノール製造法は、サトウキビやトウモロコシなどの穀物のデンプンを原材料 とするため、バイオエタノールの増産が穀物価格の高騰を招き、食糧需要を逼迫する等の問題が顕在化している。その解決策として、非食用植物(または、食用 植物の非可食部)由来のセルロース系バイオマス(注5)を原料とした、安価なバイオ燃料・化学工業原料の製造技術が求められている。
  セルロース系バイオマスの糖化法としては、これまでに、物理・化学的処理や微生物を用いた酵素処理法等が提案されているが、エネルギー収支や生産コストの問題から、本格的な実用化には至っていない。そこで本研究では、葉緑体工学(注6)を用いることで、細胞壁に含まれるセルロース系バイオマスの分解に役立つ、耐熱性(糖化)酵素(注7)を大量生産する遺伝子組換えタバコを作出し、簡便な処理(粉砕・加熱処理等)を施すことによって、自己のセルロース系バイオマスを分解して効率的に糖質(グルコース(注8)やキシロース(注9) 等)を生産する「自己糖化型エネルギー作物」を開発した。本システムの特色としては、セルロース系バイオマスの酵素糖化における最大の問題点である、“糖化酵素の生産コスト”を限りなくゼロに近づけることが出来る点が挙げられる。なぜならば、酵素生産に係るコストは(エネルギー作物の栽培コストに含まれる ため)実質的にゼロと見積もられるからである。さらに、“光合成”によって植物が生長するのに伴って酵素が生産されるため、酵素生産過程で大気中の二酸化 炭素が吸収されることになる。これは、微生物を用いた糖化酵素生産系にはない特性であり、セルロース系バイオマスの糖化系で発生する二酸化炭素排出量の大 幅削減に繋がることが期待される。
 
研究成果
 葉緑体工学により、6種類の耐熱性糖化酵素(エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ-I,-II (CBHI, CBHII)、β-グルコシダーゼ、キシラナーゼ、キシロシダーゼ)を、細胞内の全タンパク質の10%以上のレベルで(個別に)大量発現する葉緑体形質転換(注10) タバコの作出に成功した。さらに、これらの組換えタバコの葉から、耐熱性糖化酵素を粗抽出し、酵素回収後の(細胞壁成分(セルロース系バイオマス)を含 む)植物残渣に対してアルカリ前処理を施した後、両者を再混合して糖化反応を行うことで、自己のセルロース系バイオマスの50%以上を糖質(グルコースや キシロース等)として回収できる“自己糖化システム”を構築するに至った(図1参照)。
 
今後への期待
 本研究で確立した基盤技術を実用植物(バイオマス生産量の多いイネ科やマメ科の非食用資源作物等)に導入することで、バイオ燃料や有用化学製品の原料としての糖質を低コストかつ効率的に生産するバイオリファイナリーの創製が期待される。
 
注(用語の解説)
  1. バイオマス:再生可能な、生物由来の有機エネルギーや資源(化石燃料は除く)を指す。
  2. バイオリファイナリー:再生可能資源であるバイオマスを原料にバイオ燃料や化学製品を製造する技術。
  3. カーボンニュートラル:植物バイオマスを燃焼すると、化石燃料と同様に二酸化炭素(CO2)を発生するが、植物は、成長過程で光合成によりCO2を吸収しており、ライフサイクル全体でみると大気中のCO2を増加させず、収支はゼロであると考えられる。このように、CO2の増減に影響を与えない性質のことをカーボンニュートラルと呼ぶ。
  4. バイオエタノール:産業資源としてのバイオマスから生成されるエタノールを指す。ガソリンの代替燃料として利用される。
  5. セルロース系バイオマス:主な構成成分としてセルロース(グルコースが連なった多糖類)を含む木や草などの植物バイオマス。
  6. 葉緑体工学:植物細胞において光合成などの物質生産の場である葉緑体には、独自のDNAが存在する。この葉緑体DNAに外来遺伝子を直接導入することで、有用なタンパク質や稀少な代謝産物を大量生産する“化学工場”として葉緑体を活用する遺伝子組換え技術が、葉緑体工学である。
  7. 耐熱性酵素:高温で生活する微生物由来の酵素であり、i) 高温条件での高い反応性、ii) 常温での長期保存が可能、iii) 容易に高純度精製が可能など、通常の酵素にはない特徴を備えている。
  8. グルコース:代表的な単糖の1種で、ブドウ糖と呼ばれる。セルロースを構成する主成分である。
  9. キシロース:五炭糖の一種であり、セルロースと共に植物細胞の細胞壁に含まれるヘミセルロースの主要な構成成分である。
  10. 形質転換:外部からDNAを導入し、その生物の遺伝的性質を変えること。

図1(クリックすると大きくなります。一度のクリックであまり大きくならない場合は画像を再度クリックしてください)
葉緑体工学を用いた自己糖化型エネルギー作物の開発

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電話: 075-703-5212 FAX: 075-703-4979

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バイオ燃料・化学工業原料の低コスト生産に向けた新技術:粉砕・加熱処理により“糖質”を生産する非食用植物(自己糖化型エネルギー作物)を開発への別ルート

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