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ホスファチジルイノシトール3,5二リン酸生成酵素FAB1による植物エンドソームの成熟機構の解明

[2015年9月18日]

ホスファチジルイノシトール3,5二リン酸生成酵素FAB1による植物エンドソームの成熟機構の解明

発表者
平野朋子(京都府立大学大学院生命環境科学研究科博士研究員)
佐藤雅彦(京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授)

京都府立大学大学院生命環境科学研究科の平野朋子博士研究員と佐藤雅彦准教授,アムステルダム大学のTeun Munnik教授の研究グループは,シロイヌナズナを用いて,ホスファチジルイノシトール3,5二リン酸生成酵素FAB1による植物エンドソームの成熟がオーキシン輸送タンパク質PINの細胞膜への極性輸送を制御することを明らかにしました。FAB1による極性タンパク質の輸送機構を解明することで,植物の形づくりのメカニズムの詳細が明らかになり,更にFAB1の機能を制御することで,植物の形を自在に改変する技術開発がなされ,農作物の新たな改良技術に応用されることが期待されます。

  • 発表雑誌
    Plant Physiology
    植物科学分野の学術誌190誌中2番目にランキングされる国際的な学術誌です(2015年 インパクトファクター 8.03)。
  • 著者:Tomoko Hirano, Teun Munnik, and Masa H. Sato
  • タイトル
    Phosphatidylinositol 3-phosphate 5-kinase, FAB1/PIKfyve mediates endosome maturation to establish endosome-cortical microtubule interaction in Arabidopsis
  • この研究成果は,9月9日に電子ジャーナル版に掲載されました。

発表概要
モデル植物シロイヌナズナを用いて,ホスファチジルイノシトール3,5二リン酸生成酵素FAB1の機能解析を行いました。その結果,FAB1は,後期エンドソームの成熟過程で重要な働きをしていることを解明しました。FAB1の作用により後期エンドソームが成熟すると後期エンドソームが表層微小管と相互作用するようになり,その結果,オーキシン輸送タンパク質であるPINタンパク質が細胞膜上の特定の領域に輸送されることが明らかになりました(図)。

発表内容

1.これまでの研究でわかっていた点
真核細胞内には,膜構造をもった多数の細胞小器官(オルガネラ)が存在します。オルガネラは,ミトコンドリアや葉緑体といった二重の脂質膜で囲まれたものと,小胞体,ゴルジ体,エンドソーム、リソソーム,液胞,細胞膜など一重の脂質膜でできているものがあります。一重膜でできたオルガネラのタンパク質は,小胞体で合成され,輸送小胞という脂質膜でできた小胞によって,ゴルジ体,細胞膜,リソソーム,液胞などの細胞内の様々なオルガネラへ輸送されます。この輸送経路のことを膜交通経路と呼びます。真核細胞では,この膜交通経路によって,細胞膜上の特定の領域へのタンパク質の輸送が行われ(極性輸送),その結果、細胞の極性が決定されます。細胞極性の確立は,多細胞生物の形態形成を決める最も大きな因子の一つです。植物では、極性確立の例として,オーキシンの極性輸送の制御を介して、形態形成,重力屈性の制御など様々な生理現象を制御していることが知られています。
 この膜交通経路では,極性輸送の制御にエンドソームと呼ばれるオルガネラが重要な働きをしています。エンドソームには,初期エンドソーム,後期エンドソームという二種類のエンドソームがありますが,細胞膜上の極性タンパク質は,これらのエンドソームと細胞膜の間をリサイクリングすることで,極性を動的に維持されていることが知られています。しかし、エンドソームがどのようにしてできあがるか,エンドソームがタンパク質の極性輸送にどのように関与しているかなど不明な点が数多く残されていました。
 
2.この研究で得られた結果,知見
私達は,植物の膜交通経路の制御メカニズムを明らかにする目的で,FAB1というタンパク質の解析を行ってきました。FAB1は,イノシトールリン脂質の一種であるホスファチジルイノシトール3,5二リン酸を作り出す酵素で,酵母や動物では,後期エンドソームに局在していることが明らかとなっています。私達は,先行研究において,モデル植物シロイヌナズナを用いて,FAB1の機能を欠失させると,花粉の形成や根の重力屈性,花の形態形成などに様々な異常が生じることを明らかにしました。本研究では,重力屈性が起きる分子メカニズムを追求し、FAB1の機能の欠損によって,オーキシン輸送タンパク質であるPINタンパク質の極性に乱れが生じることを明らかにしました。
 植物は,オーキシンの極性輸送を制御することで,形態形成や重力屈性,光屈性の制御を行っています。このオーキシンの細胞間の方向性を持った輸送は,オーキシン排出輸送体のPINタンパク質が細胞膜の上面や下面といった特定の領域に局在・配置することで,可能になっています。シロイヌナズナにおいてFAB1の機能を欠損させると,この配置に乱れが生じました。
更にFAB1が欠損した条件下では,後期エンドソームに局在する機能タンパク質であるARA7とSNX1が,エンドソーム膜上に集合できなくなることも明らかにしました。これは、FAB1によって前期エンドソームから後期エンドソームができあがることを意味します。こうして、生成された後期エンドソームが、表層微小管と結合できるようになって膜タンパク質が輸送されることを見出しました。これは、ちょうど、列車(後期エンドソーム)が、積んでいる荷物(膜タンパク質)をレール(表層微小管)に載せて運ぶイメージです。また、FAB1の機能欠損状況では、表層微小管の配向の乱れが生じることを明らかにしました。
 これらの結果から,FAB1は,エンドソーム上で,ホスファチジルイノシトール3,5二リン酸を作り出すことで,後期エンドソームの生成に必要な分子をエンドソーム膜上に集合させ,その結果,出来上がった後期エンドソームが,表層微小管と接触することで,細胞膜の特定の領域にPINタンパク質などの極性膜タンパク質を輸送していることを明らかにしました。

3.今後の課題,研究の波及効果
後期エンドソームと表層微小管の相互作用により,細胞膜へのタンパク質の極性輸送がどのように制御されているか明らかにしたいと考えています。FAB1による極性タンパク質の輸送機構を解明することで,植物の形づくりのメカニズムの詳細が明らかになり,更にFAB1の機能を制御することで,植物の形を自在に改変する技術開発がなされ,農作物の新たな改良技術に応用されることが期待されます。

なお本研究は,京都府立大学が中心となり,オランダのアムステルダム大学との共同研究で,文部科学省の科学研究費補助金(学術領域研究25119720),京都府立大学戦略的重点研究費の補助を受け行われたものです。

用語解説
・細胞膜
細胞内外を隔てる脂質でできた膜。細胞膜上には,様々な機能的膜タンパク質が存在しており,それらの働きにより,細胞内外へ物質を輸送したり,シグナルを伝える。細胞膜へのタンパク質および脂質の輸送は,小胞輸送を用いて行われている。

・エンドソーム
細胞外や細胞膜上から細胞の内部へ物質を取り込む働きをエンドサイトーシスとい呼ぶ。エンドソームは,エンドサイトーシス経路上にあるオルガネラの総称である。

・表層微小管
植物細胞では,細胞膜を裏打ちするような形で,チューブリンという構成単位が重合した微小管という線維状タンパク質が存在する。表層微小管は,細胞の伸長方向に対して垂直に配向しており,表層微小管に沿ってセルロース合成酵素が移動することで,細胞壁中のセルロース繊維の方向性が決定され,その結果,植物細胞の成長方向や形態形成が決定される。


 

説明図

図 FAB1の働きにより,エンドソーム上でホスファチジルイノシトール3,5二リン酸が生成する。その結果,初期エンドソームが成熟し,後期エンドソームになる。成熟した後期エンドソームは表層微小管と相互作用することで,細胞膜上の特定の領域にPINタンパク質を輸送する。

お問い合わせ

京都府立大学生命環境学部

e-mail: gakuji@kpu.ac.jp


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