シャインマスカットブドウの皮ごと食べられ易さの機構にせまる研究成果が国際学術誌「Scientia Horticulturae」に掲載されました
ブドウ‘シャイマスカット’は十分に成熟することで、糖度の増加や酸含量の減少といった食味の向上だけではなく、皮ごと食べやすくなります。未熟な状態では、皮が剥けやすくなります。京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 資源植物学研究室と食事科学研究室の研究グループは、上記の原因として、果粒外側の果皮周辺部の果肉における細胞壁のヘミセルロースとキレート可溶性ペクチンを構成する単糖のアラビノースやキシロース含量が増加し、さらに高分子化して、果皮と果肉の接着力が増すことによって、剥皮できなくなり、結果皮ごと食べられることを明らかにし、ブドウの皮ごと食べられ易さの機構について初めて解明しました。この度、本研究が、Elsevierが発行する国際学術誌「Scientia Horticulturae」に2025年5月28日付けにてオンライン掲載されましたので報告します。
研究結果の概要図
生食用ブドウ‘シャインマスカット’は糖度が高いだけではなく、パリッとした歯切れと皮ごと食べられるテクスチャー※1が消費者の評価を受け、日本国内で栽培面積が拡大しています。一般に果実のテクスチャーは、成熟に伴って大きく変化します。通常ほとんどの果実組織では成熟が進むにつれ軟化します。皮ごと食べやすい品質の果実を消費者に提供することは重要なことですが、‘シャインマスカット’の成熟に伴うテクスチャーの変化や皮ごと食べやすさの機構についての知見は得られていませんでした。
私たちが行った調査では、未熟な‘シャインマスカット’の果粒は口内で果皮と果肉が分離しやすいため、皮ごと食べにくく、成熟が進むにつれ、果皮と果肉が分離せず、皮ごと食べやすい品質となった結果が得られました。この結果を詳細に分析するため、‘シャインマスカット’果実を成熟段階ごとに収穫し、クリープメーター※2を用いて、果粒のテクスチャーの変化を調査しました。その結果、収穫期が近づいたベレーゾン※3 49日後を境に、果粒の果肉硬度の上昇、皮ごと食べやすさの評価の向上、果皮と果肉との接着力の増加といった各種物性の変化を把握することができました。一方で、本結果は、多くの果実でみられる成熟に伴う果肉の軟化と全く異なる新しい現象であることから、この現象を説明するためにはさらなる調査が必要でした。
そこで本研究では、果粒を果粒中央部果肉、果皮周辺部果肉、果皮の3つの部位に分け、それぞれの成熟に伴う細胞壁構成成分の変化を調査しました。その結果、果粒中央部果肉では成熟に伴う変化はわずかであった一方で、果皮周辺部では、成熟に伴ってペクチンやヘミセルロースの増加や高分子化がみられ、特に果皮と果肉との接着性が高まったベレーゾン49日後では、これら細胞壁構成成分が著しく増加していたことを明らかにしました。
本研究成果は、ブドウの食感を改善する方法に関する基礎的な理解に寄与するものであり、今後のテクスチャー改善を目的とした品種改良において重要となります。
私たちが行った調査では、未熟な‘シャインマスカット’の果粒は口内で果皮と果肉が分離しやすいため、皮ごと食べにくく、成熟が進むにつれ、果皮と果肉が分離せず、皮ごと食べやすい品質となった結果が得られました。この結果を詳細に分析するため、‘シャインマスカット’果実を成熟段階ごとに収穫し、クリープメーター※2を用いて、果粒のテクスチャーの変化を調査しました。その結果、収穫期が近づいたベレーゾン※3 49日後を境に、果粒の果肉硬度の上昇、皮ごと食べやすさの評価の向上、果皮と果肉との接着力の増加といった各種物性の変化を把握することができました。一方で、本結果は、多くの果実でみられる成熟に伴う果肉の軟化と全く異なる新しい現象であることから、この現象を説明するためにはさらなる調査が必要でした。
そこで本研究では、果粒を果粒中央部果肉、果皮周辺部果肉、果皮の3つの部位に分け、それぞれの成熟に伴う細胞壁構成成分の変化を調査しました。その結果、果粒中央部果肉では成熟に伴う変化はわずかであった一方で、果皮周辺部では、成熟に伴ってペクチンやヘミセルロースの増加や高分子化がみられ、特に果皮と果肉との接着性が高まったベレーゾン49日後では、これら細胞壁構成成分が著しく増加していたことを明らかにしました。
本研究成果は、ブドウの食感を改善する方法に関する基礎的な理解に寄与するものであり、今後のテクスチャー改善を目的とした品種改良において重要となります。
【論文URL】
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【掲載論文】
Koji Oida, Motoko Matsui, Yukari Muramoto and *Akihiro Itai.
Changes in Cell Wall Components on Berry Texture and Adhesion strength of Table Grape ‘Shine Muscat’ at Different Ripening Stages. Sci. Hortic (2025). DOI: 10.1016/j.scienta.2025.114198
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【掲載論文】
Koji Oida, Motoko Matsui, Yukari Muramoto and *Akihiro Itai.
Changes in Cell Wall Components on Berry Texture and Adhesion strength of Table Grape ‘Shine Muscat’ at Different Ripening Stages. Sci. Hortic (2025). DOI: 10.1016/j.scienta.2025.114198
研究成果の社会的意義
本研究では、果粒の物性だけではなく、細胞壁構成成分の変化を調査したことによって、生理学的観点から、‘シャインマスカット’が十分に成熟が進むことにによって、皮ごと食べられる品質となることを明らかとしました。一般に、‘シャインマスカット’は糖度だけではなく皮ごと食べやすさも考慮することが重要で、早期出荷による高値販売を目的とした収穫を避けるべきであることを示しています。‘シャインマスカット’の大きな魅力のひとつは皮ごと食べることのため、本研究の成果は、本品種が巨峰やマスカット・ベーリーAのように長く消費者から評価を得るための知見として活用されることが期待されます。また、本研究の結果は、ブドウのテクスチャーを向上させる方法に関する基礎的知見に寄与するものと考えられます。
研究の概要(詳細内容)
本研究は、‘シャインマスカット’の成熟過程における果実のテクスチャーと細胞壁組成の変化を調査することを目的として実施しました。
成熟段階における果粒の物性の変化を調査するため、クリープメーターによって円柱型プランジャーによる果粒の破断試験を行うとともに、同じくクリープメーターによる引張試験によって果皮と果肉の接着強度を測定しました。破断試験の結果、皮ごと食べやすさを示す評価指標となる第二破断ひずみ率※4は成熟とともに減少し、ベレーゾン56日後に収穫した果粒は皮ごと食べやすいと評価される100%未満に低下しました。さらに成熟に伴い、物性分析の結果から果皮強度が低下していることが示唆されました。また、引張試験の結果、果肉と皮の接着強度は、ベレーゾン後28日後に収穫した果粒は1.2 Nでしたが、ベレーゾン49日後収穫した果粒では1.6 Nに増加しており、果実の成熟に伴って果皮と果肉との接着力が高まったことが明らかとなりました。
この変化について生理的側面から知見を得るため、果実の成熟に伴う果粒の細胞壁構成成分の変化を調査しました。果粒の部位によって細胞壁構成成分の変化が異なることが考えられたため、より詳細な分析ができるように、果粒を果粒中央部果肉、果皮周囲部果肉、果皮の3つの部分に分けて分析しました。その結果、果粒中央部果肉における成熟による細胞壁成分の変化はわずかなものでしたが、果皮周辺部果肉では、成熟とともにペクチンとヘミセルロースの含量が増加傾向を示しました。特に、物性分析において果皮と果肉との接着力が増加したベレーゾン49日後の果粒では、これらの含量が有意に増加しました。また、果皮周辺部果肉内のペクチンにおいて、ペクチン内での架橋構造を造る上で重要となるアラビノースが最も多く含まれる単糖類であることが明らかとなりました。さらに果皮ではセルロースの減少が示唆されました。
以上より、ブドウ果粒の細胞壁成分の含有量は、果実の部位によって異なっていることが明らかとなりました。特に、成熟度の違いによる果皮と果肉との接着性の変化は、果皮周辺部の果肉中のペクチンとヘミセルロースの構造変化に起因することが示唆されました。果実が成熟するにつれて、皮周囲の果肉の細胞壁組成が変化するとともに、これらの変化が果実の食感に影響したことが示されました。
成熟段階における果粒の物性の変化を調査するため、クリープメーターによって円柱型プランジャーによる果粒の破断試験を行うとともに、同じくクリープメーターによる引張試験によって果皮と果肉の接着強度を測定しました。破断試験の結果、皮ごと食べやすさを示す評価指標となる第二破断ひずみ率※4は成熟とともに減少し、ベレーゾン56日後に収穫した果粒は皮ごと食べやすいと評価される100%未満に低下しました。さらに成熟に伴い、物性分析の結果から果皮強度が低下していることが示唆されました。また、引張試験の結果、果肉と皮の接着強度は、ベレーゾン後28日後に収穫した果粒は1.2 Nでしたが、ベレーゾン49日後収穫した果粒では1.6 Nに増加しており、果実の成熟に伴って果皮と果肉との接着力が高まったことが明らかとなりました。
この変化について生理的側面から知見を得るため、果実の成熟に伴う果粒の細胞壁構成成分の変化を調査しました。果粒の部位によって細胞壁構成成分の変化が異なることが考えられたため、より詳細な分析ができるように、果粒を果粒中央部果肉、果皮周囲部果肉、果皮の3つの部分に分けて分析しました。その結果、果粒中央部果肉における成熟による細胞壁成分の変化はわずかなものでしたが、果皮周辺部果肉では、成熟とともにペクチンとヘミセルロースの含量が増加傾向を示しました。特に、物性分析において果皮と果肉との接着力が増加したベレーゾン49日後の果粒では、これらの含量が有意に増加しました。また、果皮周辺部果肉内のペクチンにおいて、ペクチン内での架橋構造を造る上で重要となるアラビノースが最も多く含まれる単糖類であることが明らかとなりました。さらに果皮ではセルロースの減少が示唆されました。
以上より、ブドウ果粒の細胞壁成分の含有量は、果実の部位によって異なっていることが明らかとなりました。特に、成熟度の違いによる果皮と果肉との接着性の変化は、果皮周辺部の果肉中のペクチンとヘミセルロースの構造変化に起因することが示唆されました。果実が成熟するにつれて、皮周囲の果肉の細胞壁組成が変化するとともに、これらの変化が果実の食感に影響したことが示されました。
【参考】
剥皮した‘シャインマスカット’の果粒の写真。果粒の付け根である果梗部周辺の果皮にナイフで浅く切れ込みを入れました。さらに、果梗部の先端から果粒の赤道部にかけて1本の切り込みを入れました。この縦方向の切り込みの裏側から、丁寧に手で果皮を剥きました。ベレーゾン28日後の果粒は果皮が破れることなく容易に剥皮できた一方で、56日後の果粒は果皮と果肉の接着力が強く、また果皮が簡単に破れてしまったため、剥皮が困難でした。
剥皮した‘シャインマスカット’の果粒の写真。果粒の付け根である果梗部周辺の果皮にナイフで浅く切れ込みを入れました。さらに、果梗部の先端から果粒の赤道部にかけて1本の切り込みを入れました。この縦方向の切り込みの裏側から、丁寧に手で果皮を剥きました。ベレーゾン28日後の果粒は果皮が破れることなく容易に剥皮できた一方で、56日後の果粒は果皮と果肉の接着力が強く、また果皮が簡単に破れてしまったため、剥皮が困難でした。
発表雑誌
【雑誌名】
Scientia. Horticulturae
【論文タイトル】
Changes in Cell Wall Components on Berry Texture and Adhesion strength of Table Grape ‘Shine Muscat’ at Different Ripening Stages.
【著者】
Koji Oidaa,b, Motoko Matsuia, Yukari Muramotoa, and Akihiro Itaia,*
aGraduate School of Life and Environmental Science, Kyoto Prefectural University, 1-5 Shimogamo-hangi-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8522, Japan
bTango Regional Promotion Office, Department of Agriculture, Forestry, Commerce and Industry, Tango Agricultural Improvement and Growth Center, 855 Tamba, Mineyama-cho, Kyotango, 627-8570, Japan
*Corresponding author. Akihiro Itai, E-mail address: itai@kpu.ac.jp
Scientia. Horticulturae
【論文タイトル】
Changes in Cell Wall Components on Berry Texture and Adhesion strength of Table Grape ‘Shine Muscat’ at Different Ripening Stages.
【著者】
Koji Oidaa,b, Motoko Matsuia, Yukari Muramotoa, and Akihiro Itaia,*
aGraduate School of Life and Environmental Science, Kyoto Prefectural University, 1-5 Shimogamo-hangi-cho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8522, Japan
bTango Regional Promotion Office, Department of Agriculture, Forestry, Commerce and Industry, Tango Agricultural Improvement and Growth Center, 855 Tamba, Mineyama-cho, Kyotango, 627-8570, Japan
*Corresponding author. Akihiro Itai, E-mail address: itai@kpu.ac.jp
用語解説
※1テクスチャー
食品の手や口で感じられる触覚に対応する性質のことを指します。硬さ、粘り、弾力性、塑性、付着性、もろさ、舌さわり、歯ぎれ、歯ごたえ、滑らかさ、口どけ、飲み込みやすさなどがこれにあたります。
※2クリープメーター
食品等の物性を測定する装置です。試料台に試料となる食品をのせ、一定の速度で圧縮もしくは、引張することで、荷重の変化や変形量を解析します。試験から得られる物性値としてとらえる基礎的な測定から口腔内での感覚(かたさ、歯ごたえなど)を数値でとらえます。
※3ベレーゾン
ブドウの果粒が急激に軟化し、着色を始める転換点となる時期を指します。この転換点を過ぎると、糖度の蓄積や、有機酸含量の減少が起こります。ベレーゾンが始まると、収穫までの期間が本格的にカウントダウンされるため、農家にとって重要な段階です。
※4第二破断歪率
京都府立大学が開発したブドウの皮ごと食べやすさを評価する値です。ブドウ果粒をドーナツ型に穴が開いた台座に横向きに置き、円柱型プランジャーで貫通させます。歪率は果粒の高さに対してのプランジャーの位置を示し、プランジャーが果粒の上面に接しているときは0%、台座に面した時が100%となります。第二破断歪率が100%未満の時、プランジャーが果肉を破断するのと同時に果皮も破断されることを示し、咀嚼中に果皮もかみ切りやすい結果となります
食品の手や口で感じられる触覚に対応する性質のことを指します。硬さ、粘り、弾力性、塑性、付着性、もろさ、舌さわり、歯ぎれ、歯ごたえ、滑らかさ、口どけ、飲み込みやすさなどがこれにあたります。
※2クリープメーター
食品等の物性を測定する装置です。試料台に試料となる食品をのせ、一定の速度で圧縮もしくは、引張することで、荷重の変化や変形量を解析します。試験から得られる物性値としてとらえる基礎的な測定から口腔内での感覚(かたさ、歯ごたえなど)を数値でとらえます。
※3ベレーゾン
ブドウの果粒が急激に軟化し、着色を始める転換点となる時期を指します。この転換点を過ぎると、糖度の蓄積や、有機酸含量の減少が起こります。ベレーゾンが始まると、収穫までの期間が本格的にカウントダウンされるため、農家にとって重要な段階です。
※4第二破断歪率
京都府立大学が開発したブドウの皮ごと食べやすさを評価する値です。ブドウ果粒をドーナツ型に穴が開いた台座に横向きに置き、円柱型プランジャーで貫通させます。歪率は果粒の高さに対してのプランジャーの位置を示し、プランジャーが果粒の上面に接しているときは0%、台座に面した時が100%となります。第二破断歪率が100%未満の時、プランジャーが果肉を破断するのと同時に果皮も破断されることを示し、咀嚼中に果皮もかみ切りやすい結果となります
【連絡・お問い合せ先】
京都府立大学 大学院生命環境科学研究科
資源植物学研究室 教授 板井 章浩
電話 0774-93-3253 E-mail itai@kpu.ac.jp
資源植物学研究室 教授 板井 章浩
電話 0774-93-3253 E-mail itai@kpu.ac.jp