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京都府立大学の取り組み

【共同研究成果】GABAの脳作用による満腹感増強についての産学連携研究成果をスイスの学術誌で発表


GABAが脳機能に作用する機序についての産学連携研究成果をスイスの学術誌で発表

GABAの作用機序

γ-アミノ酪酸 (GABA、ギャバ) は神経伝達物質として生体内(脳)に多く存在する一方、食品(野菜、果物、発酵食品など)にも多く含まれます。食事由来のGABAは脳機能に影響を与え、不安低減や睡眠の質向上など有益な効果を有し、サプリメントや機能性食品として現在広く利用されています。しかし、摂取したGABAが脳に移行しないことは古くから知られており、GABAがどのように脳に作用しているか、その作用機序は不明でした。

今回、京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授の岩﨑有作と大学院生の能美太一を中心とするグループは、株式会社ファーマフーズとの共同研究で、以下を発見しました。

① 経口摂取したGABAは内臓感覚神経(求心性迷走神経)を介しての脳機能(満腹感誘導)に影響を与えることを発見しました。
② 食事は内臓感覚神経を活性化する作用を有し、GABAがこの食後内臓感覚神経活性化作用を増強することを発見しました。
③ ②の神経経路が満腹感増強という脳機能と連関し、食べ過ぎを予防することを発見しました。

本研究では、食事性GABAが脳に作用する経路の1つとして、内臓感覚神経から脳へ作用するアクセスルートを見出しました。そして、内臓感覚神経からの脳作用は、GABAの経口摂取では駆動する一方、注射では駆動せず、GABAは食事として摂取することが重要であることを明らかにしました。経口摂取したGABAが、どのような機序で内臓感覚神経を活性化しているのか、その詳細な機序については今後の研究課題です。

近年の医療分野では、内臓感覚神経は脳機能異常(てんかん、うつ病、肥満・糖尿病)を副作用なく改善するための作用標的臓器として注目されており、外科手術を必要とした埋め込み型電極装置が開発・使用されています。本研究では、GABAを経口摂取することで内臓感覚神経を活性化/活性化増強し、脳機能に有益な効果(満腹感増強・食べ過ぎ予防)をもたらすことを発見しました。従って、外科手術などの特殊医療を必要としなくとも、GABAを摂取することで求心性迷走神経を賦活化し、脳機能異常を予防/改善できる可能性があります。今後、GABAの脳作用における詳細な機序が解明されることにより、科学的根拠に基づいた機能性食品として、食事性GABAが多くの人々の健康維持・増進に貢献することが期待されます。

本研究成果は、スイスの学術雑誌「Nutrients」の2022年14巻12号に、2022年6月24日 1時(日本時間)よりオンラインで発表されています。https://www.mdpi.com/2072-6643/14/12/2492

本研究の一部は、日本科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST, JPMJCR21P1)および研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP, JPMJTR20UT)、また、日本医療研究開発機構橋渡し研究戦略推進プログラム(JP 21lm0203014)の助成によって行われました。

1. 研究背景と研究目的
γ-アミノ酪酸 (GABA、ギャバ) は、哺乳類の脳に多く存在し、主たる抑制性神経伝達物質として機能しています。その他GABAは様々な食品(野菜、果物、お茶、大豆、発芽米、発酵食品など)にも含まれており、我々は日常的に食事から摂取しています。食事性のGABAの機能性として、不安の緩和、睡眠の質向上、認知機能改善などがヒト試験にて報告されています。そのため、GABAは機能性食品やサプリメントとして国内外で広く利用されています。しかしながら、摂取したGABAが脳に移行しないことは古くから知られており、GABAがどのように脳に作用しているか、その作用機序は不明でした。
脳の視床下部は、ストレス反応、睡眠、摂食の制御に重要な役割を担っています。内臓感覚神経の求心性迷走神経は、食事に含まれる栄養素や食後分泌される胃腸膵ホルモンを受容し、その神経情報が視床下部へと伝達されることで摂食やストレスなどの脳機能を調節することが知られています。そこで、脳に移行しないGABAは求心性迷走神経を介して脳に作用している可能性が考えられました。
本研究では、食事性GABAの求心性迷走神経に対する作用と脳機能を、マウスを用いて検証しました。

2. 研究内容
食欲中枢は脳の視床下部に存在します。そこで本研究では、食事性GABAの脳への作用を、摂食行動を指標に評価しました。一晩絶食させたマウスにGABAを単回胃内投与し、その直後に給餌し、摂食行動を解析しました。その結果、GABA投与直後の摂食量が有意に低減しました(図1A)。GABA投与後の嫌悪行動(自発行動量、条件付け味嫌悪試験)には変化が認められなかったことから、GABAは摂取後速やかに満腹感を創出または増強させて、摂食量を低減させていると示唆されました。このGABAの満腹感増強作用は、求心性迷走神経を外科的もしくは化学的に障害させることで消失しました(図1B)。従って、食事性のGABAが求心性迷走神経を介して満腹感を増強させることが分かりました。
興味深い実験成果を得ました。一晩絶食させた空腹のマウスにチューブを用いて液体食または生理食塩水(対照群)を胃内に投与しました。その後に給餌して摂食行動を調べました。その結果、どちらの群も同量の餌を摂取し、液体食を与えた群は強制的に与えた餌と自ら摂取した餌の累積から過食を呈しました(図2A,B)。他方、GABAを添加した液体食をチューブを用いて胃内投与すると、その後の自発摂食量が有意に低減し、生理食塩水事前投与群と同じ累積摂食エネルギーとなりました(図2A,B)。従って、食事と同時にGABAを摂取することで、食べ過ぎを強力に予防できることが示されました。
上記作用の機序に求心性迷走神経が関与するか検討しました。求心性迷走神経は摂食行動を調節する重要な神経です。食事の摂取によって求心性迷走神経は活性化します。液体食を胃内投与すると求心性迷走神経における神経活性化マーカー(pERK1/2)の発現量は有意に増加しました(図3)。そして、GABAを添加した液体食を胃内投与すると、GABAを含まない液体食よりも、求心性迷走神経に発現するpERK1/2発現量を増大させました(図3)。他方、GABAのみを含む溶液を単独胃内投与しても、求心性迷走神経は活性化しませんでした。従って、GABAは、直接求心性迷走神経に作用するのではなく、食事因子と相互作用することで求心性迷走神経を活性化・活性化増強することが示唆されました。GABAを含む液体食を事前に胃内投与することでみられた過食予防作用は、求心性迷走神経を障害させることにより完全に消失しました(図2C)。従って、GABAの満腹感増強・過食予防作用には求心性迷走神経を介した脳作用が必須であることが示されました。

3. 今後の展望
本研究では、脳に直接作用できないGABAが求心性迷走神経を介して脳に作用する新規作用経路を明らかにしました(図4)。
ストレス・過労・超高齢社会・Withコロナである現代、様々な脳機能障害(摂食;過食・食欲不振、代謝;肥満・メタボリック症候群・フレイル、精神;不安症・うつ病・不眠症)の罹患者数が増加しています。既存の治療薬(抗うつ薬、抗不安薬、抗肥満薬)は、血液脳関門という脳のバリアを通過して脳へ直接作用します。これら製剤は、目的の神経以外にも作用するため、多くが副作用(有害作用)を有し、問題視されています。一方、近年の医療分野では、間接的に(神経情報を介して)脳に作用する「求心性迷走神経」が注目されています。求心性迷走神経は、神経情報を介して限局された脳領域のみに作用するため、副作用が少なく、脳機能異常(てんかん、うつ病、肥満・糖尿病)を改善するための作用標的臓器として注目されており、外科手術を必要とした埋め込み型電極装置が開発・使用されています。本研究では、GABAを経口摂取することで求心性迷走神経を活性化/活性化増強し、脳機能に有益な効果(満腹感増強・食べ過ぎ予防)をもたらすことを発見しました。従って、外科手術などの特殊医療を必要としなくとも、GABAを摂取することで求心性迷走神経を賦活化し、脳機能異常を予防/改善できる可能性があります。今後、GABAの脳作用における詳細な機序が解明されることにより、科学的根拠に基づいた機能性食品として、食事性GABAが多くの人々の健康維持・増進に貢献することが期待されます。

4. 論文情報
論文名:Dietary gamma-aminobutyric acid (GABA) induces satiation by enhancing the postprandial activation of vagal afferent nerves.
【日本語】 食事性GABAは食後の求心性迷走神経活性化を増強することで満腹感を誘導する

著者:Utano Nakamura†, Taichi Nohmi†, Riho Sagane, Jun Hai, Kento Ohbayashi, Maiko Miyazaki, Atsushi Yamatsu, Mujo Kim, Yusaku Iwasaki*
†共同筆頭著者、*代表著者

雑誌名:Nutrients, 14, 2492 (2022) https://doi.org/10.3390/nu14122492

5.用語説明
(1)GABA
γ-アミノ酪酸 (gamma-aminobutyric acid)の略。非タンパク質構成アミノ酸の一種。哺乳類の脳に多く存在し、主な抑制性神経伝達物質として機能している。GABAは様々な食品(野菜、果物、お茶、大豆、発芽米、発酵食品など)にも含まれている。食事性のGABAには不安の緩和、睡眠の質向上、認知機能改善などの機能性が報告されており、機能性食品やサプリメントとして本国をはじめ、欧米や中国などで利用されている。
(2)求心性迷走神経
末梢の各臓器と中枢神経とを繋ぐ内臓感覚神経の1種。各臓器から発せられる因子を受容して、それを神経情報に変換して脳(延髄孤束核と最後野)に伝達する。求心性迷走神経は食前後で変動する多くの胃腸膵ホルモンによって活動が制御され、その結果、摂食行動や代謝が調節される。
(3)胃腸膵ホルモン
食後に消化管や膵臓由来のホルモンが分泌促進される。例えば、胃腸ホルモンとしては、CCK(cholecystokinin)、GLP-1(glucagon-like peptide-1)、PYY3-36(ペプチドYY3-36)、胃由来レプチン等がある。膵ホルモンとしては、インスリン、グルカゴン、膵ポリペプチド等がある。これらを胃腸膵ホルモンと称する。

図1

6.図表
(図1) GABAの単回胃内投与は迷走神経を介して摂食量を低減させる
一晩絶食させた対照マウス(A)、または、横隔膜下迷走神経を外科的に切断したマウス(B)に、生理食塩水またはGABA(200 mg/kg)を胃内単回投与し、その直後に給餌し、摂食量を測定した。対照マウスへのGABA投与は有意に摂食量を低減させた(A)。その作用は横隔膜下迷走神経切断で消失した(B)。

図2

(図2) GABAを含む液体食の前投与は求心性迷走神経を介して過食を予防する
一晩絶食させたマウスに液体食を胃内単回投与しても(黒)、生理食塩水投与群(白)と同量の餌を摂食し(A)、再摂食0.5時間後は過食を呈した(B)。他方、GABA(200 mg/kg)を添加した液体食を投与すると、再摂食0.5時間の摂食量が有意に減少し(A)、過食が予防された(B)。GABA添加による過食予防作用は、カプサイシンによる迷走神経の化学的障害によって完全に消失した(C)。

図3

(図3) 食事による求心性迷走神経活性化はGABAによって増強される
一晩絶食させたマウスに生理食塩水(A)、液体食(B)、液体食+GABA(200 mg/kg)(C)を胃内単回投与し、30分後に迷走神経下神経節を摘出した。AからCの結果は、迷走神経節上に発現する神経活性化マーカーのpERK1/2(緑色)を示している。これらを定量解析した結果を(D)に示す。液体食のみでも求心性迷走神経は有意に活性化し、液体食にGABAを添加することによってより求心性迷走神経が活性化した。

図4

(図4) 本研究の概略図
食事性GABAは、食事と同時に摂取することにより、求心性迷走神経をより活性化し、神経情報として脳に情報を伝達する。その脳機能の一つとして、本研究では、満腹感増強作用・食べ過ぎの予防作用を発見した。GABAが脳機能に影響を与える作用機序として求心性迷走神経を介した脳作用を発見した。GABAが直接求心性迷走神経に作用しなかったこと、食事と同時にGABAを投与することで求心性迷走神経が活性化されたことから、GABAが食事因子や食後胃腸膵ホルモンなどと協働して求心性迷走神経を活性化していると推察されるが、この詳細な機序解明は今後の課題である。
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